NPO法人再生医療推進センター

第一回 元気の出る再生医療

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再生医療の最前線(1)-再興戦略での位置づけ、法律の整備、最新の動向について-

1.はじめに

国民に将来の明るい期待を与え、日本再興の鍵の一つとなる再生医療について実用化の状況に関して、再生医療の現状と、再生医療事業に革新を生み出すベンチャー企業、大手製薬会社、大学、研究機関および関連する行政機関などの動向について、逐次ご紹介していきます。本報では、日本再興戦略での位置づけ、関連法律の整備と政策支援、再生医療の最新情報についてご提供します。

2.日本再興戦略での位置づけ-鍵となる再生医療-

「円高・株安 負の連鎖 企業業績、不安が増幅」、これは2016年5月3日の日本経済新聞の記事の見出しの一部です。日本経済は、需要不足に基づくデフレ経済から抜けきれず、企業も日本国民も将来に明るい見通しを期待できる状況にありません。このデフレからの脱却に向けて、需要不足の解消が重要であるとして、安倍政権は三本の矢からなる経済政策、大胆な金融緩和政策、機動的な財政政策、そして民間投資を喚起する成長戦略を実施しています。
また日本再興戦略の中では、成長戦略の鍵となる政策の一つとして、稼ぐ力を高める企業行動を引き出す「イノベーション・ベンチャーの創出」と、ローカル・アベノミクスの推進として、「医療・介護(農林水産業、観光産業を含む)の基幹産業化」が取り組まれています。加えて、6つの改革2020プロジェクトの一つとして、「高品質な日本式医療サービス・技術の国際展開:再生医療、糖尿病、がん治療などを含む」が図られています1)

3.株価に見る明るい兆し-重要な基盤となる分野-

経済指標の一つとなる各国の主要株価指標は、日経平均株価を含め、2016年初めから3月末まで下落傾向でした。その後、海外主要指標は戻り基調にありますが、日経平均株価は、輸出関連の自動車、電気機器、機械、鉄鋼などのセクターは軟調です。そんな中、再生医療・AI(人工知能)・ロボット・自動運転・フィンテック(金融(finance))と技術(technology)を組み合わせた造語)関連銘柄は、本年5月上旬まで上昇傾向、さらに高値を更新している銘柄が多数見られました。企業の成長性、収益性などを先取りする投資家の興味の対象がこれらの分野に向きだしたことは、将来の社会に対して、再生医療をはじめ、これらの分野は安全・安心に基づく繁栄の重要な基盤分野となることが期待されます。

4.法整備などで再生医療の進展に弾み-進展に不可欠な法整備と政策支援-

4.1再生医療について

病気によっては薬や手術による治療が困難なものがあります。障害を受けた人体組織を修復する再生能力に限界があり、自然な修復が難しいことによります。この壁を越えて組織の再生を促そうとするのが再生医療です。再生医療は、病気やけが、障害などによって失われたり、損傷したりした人体組織とその機能を再生する医療行為です。人間が本来持っている力を有効に活用して、自分の細胞(自家細胞)や別の細胞(他家細胞)を利用して機能の再生を目指すものです。現在、慢性的臓器機能不全疾患に対しては、臓器移植又は人工臓器による治療しか有効ではありません。しかし、臓器移植は、拒絶反応、免疫抑制の医学的問題と深刻なドナー不足という社会的問題を抱えています。人工臓器も生体機能代替性、生体適合性の問題があります。こうした諸問題の解決策として、再生医療の実現が期待されています。将来的には、糖尿病や腎不全など従来は治療法が存在しない疾患の根本治療が可能になると期待されています。既に、皮膚や骨の分野においては、組織移植として実用化され、世界的に臨床応用されています2)-8)

4.2法律と環境の整備について

再生医療を国民が迅速に安全に受けられるようにするための綜合的な政策の推進に関する法律である「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法):多くの製品をより早く提供」及び「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療安全性確保法):安全な再生医療を安全に迅速に提供」が、2014年11月25日施行されました。
医薬品医療機器等法では、新たに「再生医療等製品」という枠を設け、少数例でも効果を推定できれば、一定の条件のもとで、期限付きで承認することを認めています。再生医療安全性確保法は、医師・歯科医師による、加工した細胞を用いた医療行為を規制するものです。同法により、医師は細胞の加工を企業へ外部委託する事が可能となりますが一方、3種類のリスク区分(詳細は後述)に応じて、再生医療等提供計画を厚生労働大臣等に提出する義務があります9)
さらに、2015年4月に基礎から実用化まで一貫した研究開発の推進を支援する「日本医療研究開発機構」が設立され、日本発の医薬品や医療機器の創出を後押しする環境の整備が進んでいます。

4.3法整備後の再生医療製品の実用化の動き

再生医療製品で実用化された製品は、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社の自家培養表皮「ジェイス」と自家培養軟骨「ジャック」のみでした。同社の2製品は、いずれも患者さん本人の細胞(自家細胞)を用います9)。 前記法整備によって、2015年9月に、テルモ社の重症心不全を対象としたヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」と、JCRファーマ社のヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)「テムセルHS注」の再生医療等製品2品目が承認されました。JCRファーマ社の今回の製品は希少疾病用ですが、他家細胞の方が量産と産業化に有利とされています。
再生医療では、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)といった万能細胞が注目されていますが、体内にあり特定の細胞による体性幹細胞を利用する再生医療が実用化で先行しています。
いずれにしましても、国内で販売されている再生医療等製品は、上記2製品が新たに市場に登場したことで、日本の市場にとって、大いなる光明となります。さらに大手製薬企業も研究開発を開始させ、ベンチャー企業、医療機関や大学等との連携などの動きは、日本で開発される再生医療製品や再生医療技術が今後、急速に進展していくことが期待されます10)

4.4政策支援について

政策的な支援については、安倍総理の「成長戦略スピーチ(2013年4月19日)」から引用しますと、「再生医療のような未踏の技術開発は、成果につながらないリスクも高く、民間企業は二の足を踏みがちです。そのため、新たな分野へのチャレンジほど、進歩は遅れがちです。日本でも、再生医療をはじめ、「健康長寿社会」に向けて、最先端の医療技術を開発していくためには、アメリカの国立衛生研究所(NIH)のような国家プロジェクトを推進する体制をつくりあげます。統一的な基盤をつくって国内外の臨床研究や治験について、データを統合し、製薬メーカー、機器メーカー、病院が一体となって取り組みます。」と決意を語られました11)。この取り組みによって、前記関連の法整備、環境整備と相まって、日本の再生医療事業は迅速に進展していくでしょう。

5.再生医療等安全性確保法の施行状況 -急速に立ち上がる治療や研究の届出-

先に述べました再生医療等安全性確保法の施行状況について概要を述べます。同法は、細胞採取などの実施手続きや施設基準を定め、細胞を用いた治療や研究を行うすべての医療機関に対し国への届け出を義務づけています。実施に伴うリスクの大きさに応じて、ES細胞、iPS細胞等を用いた第1種再生医療等、体性幹細胞等を用いた第2種再生医療等、体細胞を加工した等の第3種再生医療等の3段階に分類されています。
厚生労働省によりますと、2016年4月30日の時点で、再生医療等提供計画の件数は、第1種16件、第2種80件、第3種2947件の計3073件の治療や研究の届出がありました。細胞培養加工施設の件数は、許可が41件、届出が2390件でした。認定再生医療等委員会(認定再生医療等委員会は、一定の手続により厚生労働大臣の認定を受けた再生医療等技術や法律の専門家等の有識者からなる合議制の委員会)の件数は、136件であり、その内訳は第1種及び第2種にあたる特定認定再生医療等委員会(認定再生医療等委員会のうち、特に高度な審査能力、第三者性を有するもの)は38件、第3種にあたる認定再生医療等委員会は98件でした。
参考文献:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000085941.pdf
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000120289.pdf

6.結びに

再生医療は、ベンチャー企業の果敢な挑戦と大手製薬会社、医療機関、大学および行政の熱意ある取り組みと、関連法律や環境の整備によって、今後の急速な発展が期待できます。次回は、再生医療への様々な期待、同事業の将来の規模、ベンチャー企業の動向と再生医療の最新の動きをご紹介します。

参考文献

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