NPO法人再生医療推進センター

再生医療相談室 回答ページ No.473


専門分野: 幹細胞など基礎

Q: 多系統萎縮症

 父が多系統萎縮症を発病して、約5年になります。今までセレジストやヒルトニンの点滴などの対処療法を受けてきましたが、徐々に病気は進行し、胃婁や気管切開をして寝たきりになるんじゃないかとか突然死の可能性もあり、不安な日々を送っています。対処療法だけでは、確実に父は悪くなる一方です。何か治療法がないかと探していたところ、幹細胞治療のことを知りました。まだ、日本ではマウスでの研究段階で、ヒトの臨床研究には至っていないとのことですが、韓国や民間のクリニックでは、承認されないまま幹細胞治療を行っている所があるようですね。その治療の成果はどうなんですか?幹細胞治療が安心して受けられるようになることが一番ですが、まだまだ先のこと。父はそんなに待ってられません。承認されてなくても、死ぬより可能性ある治療を受けた方がいいんじゃないかと考えてしまうんですが、どのくらいのリスクがあるのか、また、父のような神経難病の患者で幹細胞治療を受けて良くなられた方が実際いるのかを教えて頂きたいです。どうぞ、よろしくお願い致します。

掲載日: 2011.7.9

A:

  多系統萎縮症で闘病中のお父様の治療についてのご相談です。この病気は、原因不明で未だ根本的な治療法が無い神経変成疾患であるため、現状ではいわゆる対症療法を行う以外にありません。
 さて、お尋ねの「幹細胞治療」ですが、2008年に報告された韓国からの論文(英語ですが、Clin Pharmacol Ther. 2008 May;83(5):723-30. Epub 2007 Sep 26. Autologous mesenchymal stem cell therapy delays the progression of neurological deficits in patients with multiple system atrophy. Lee PH, Kim JW, Bang OY, Ahn YH, Joo IS, Huh K. Department of Neurology, Ajou University College of Medicine, Suwon, South Korea. phisland@chol.com)では、多系統萎縮症の患者さん11人に、自己の骨髄から培養した間葉系幹細胞を、最初は頸動脈から1回、その後、静脈から3回投与した結果、これを行わなかった18人の患者(対照群)さんに比べて、症状の進行が抑制されたとされています。実は、この論文に対する批判的なコメントが同じ号に掲載されています(これも英語ですが、Clin Pharmacol Ther. 2008 May;83(5):663-5. Are trials of intravascular infusions of autologous mesenchymal stem cells in patients with multiple system atrophy currently justified, and are they effective? Quinn N, Barker RA, Wenning GK. Institute of Neurology, Queen Square, London, UK. n.quinn@ion.ucl.ac.uk)。この中で問題にされている事は、有効性が動物実験等で十分に確認されていない治療法をヒトに応用している点、この治療を受けた患者さんは最初から病状が進行していたのに対し対照群の患者さんは比較的軽症で病状が進行中であった可能性、そもそも臨床研究で重要なランダム化(対象となる患者さんに偏りがないようにすること)やブラインド化(2重盲検法などでどの治療を受けた患者さんも同じように治療効果判定する)が出来ていないので評価に説得力が無いこと、そして、最初の頸動脈内への細胞注入で小さい脳梗塞が出来た可能性などです。
 そこで、ご相談に対する回答ですが、「承認されてなくても、死ぬより可能性ある治療を受けた方がいいんじゃないか」という点については、少なくとも動物実験などで有効である可能性と危険性が許容範囲であることが証明された治療法でなければ科学的あるいは医学的に「承認」されませんから、「承認」されてない治療を受けるということは無効で危険な処置(このような行為は「治療」とは言えません)を受ける可能性があるということになります。「父のような神経難病の患者で幹細胞治療を受けて良くなられた方が実際いるのか」ですが、さきの韓国からの論文でも「進行を遅らせた」とは言っていますが「良くなった」とは言っていません。不治の病と言われるガンでも自然治癒が絶対にないとは言い切れませんので、この病気が「絶対に良くならない」とは言い切れませんが、先の韓国の論文をできるだけ楽観的に読んだとしても、この方法で病気が「良くなる」ことは期待できないように思います。
 せっかくのご相談に否定的なコメントばかりで申し訳ありません。ただ、現段階で有効な治療法がない神経変成疾患などは、再生医療の非常に重要な対象疾患であることは論を待ちませんし、世界中の多くの研究者が、このような疾患に対する治療法を研究しているのも事実です。担当の医師とよく相談されて、最適な治療を受けて頂けるよう祈念致します。
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